

京の髪文化を支えてきた老舗、十三や
京都の町家文化が色濃く残る地で、「十三や」はつげ櫛一筋に歩んできた老舗として知られてきました。創業は江戸時代と伝えられ、髪を整えるという日常の所作に、静かな品格と美意識を添えてきた存在です。観光的な工芸品というよりも、京都の暮らしに根づいた実用品として、長く使い継がれてきた背景にこそ、この店の価値があると感じられます。
十三やの櫛は、派手さを前面に出すことはありません。けれども、手に取った瞬間のなめらかさ、髪を通したときのやさしい感触は、長年の経験と工夫の積み重ねによって培われたものだと伝わってきます。こうした控えめで誠実な佇まいが、「御用達」「老舗」と語られてきた理由のひとつなのでしょう。
なぜ「つげ櫛」が重んじられてきたのか
つげ櫛に使われる柘植(つげ)の木は、緻密で油分を含み、静電気が起こりにくい素材とされてきました。そのため、髪を傷めにくく、日々の手入れに向いた素材として、日本では古くから重宝されてきたといわれています。
十三やのつげ櫛もまた、この素材特性を最大限に活かすため、木取りから仕上げまでを丁寧に行う姿勢が貫かれています。歯の一本一本は、機械的に整えられた均一さとは異なり、人の手だからこそ生まれる微妙な丸みが感じられます。これが、頭皮への当たりをやわらかくし、毎日の櫛入れを心地よい時間へと変えてくれる所以だと考えられています。
髪を整える行為を「養生」として捉える思想
十三やが大切にしてきたのは、櫛を単なる整髪道具としてではなく、髪と身体をいたわるための道具として捉える視点です。つげ櫛で髪をとかすことで、頭皮に適度な刺激を与え、皮脂を髪全体に行き渡らせる。そうした行為は、古くから「養生」の一環と考えられてきたともいわれます。
現代では、ヘアケア製品や電化製品が溢れていますが、十三やの櫛は、そうした流れとは一線を画し、手をかけることそのものの価値を思い出させてくれます。忙しい日常の中で、数分間、櫛を通す時間を持つ。その行為が、心を整える時間にもつながっていく——そんな感覚を覚える方も少なくないようです。
代々受け継がれる技と、変わらぬ姿勢
十三やでは、時代に合わせた意匠の工夫を重ねながらも、基本となる製法や考え方は大きく変えていないとされています。歯の間隔、厚み、曲線の取り方などは、**長年の使用を通じて磨かれてきた「使いやすさ」**を基準にしているためです。
また、つげ櫛は使い込むほどに艶が増し、持ち主の髪質や手の油分によって表情が変わっていく道具でもあります。十三やの櫛が「育てる道具」と表現されることがあるのは、こうした経年変化を前提に作られているからでしょう。一度きりの消費ではなく、年月を共に過ごす道具として選ばれてきた背景が感じられます。
贈答品として選ばれてきた理由
つげ櫛は、古くから婚礼や節目の贈り物として用いられてきた歴史があります。「末永く」「身だしなみを大切に」という願いを込めやすい品であり、派手な装飾に頼らずとも、気持ちが自然と伝わる贈り物とされてきました。
十三やのつげ櫛は、そうした文化的背景を踏まえた品として、目上の方への贈答や、人生の節目に選ばれることが多いようです。使う人の年齢や性別を限定せず、日常に静かに寄り添う点も、贈り物としての安心感につながっていると感じられます。
まとめ ― 静かな格式を日常に迎えるという選択
十三やのつげ櫛は、豪華さや話題性を前面に出すものではありません。けれども、長い時間をかけて培われてきた信頼と技が、一本の櫛の中に確かに息づいています。
日々の身支度を、少し丁寧に。髪を整える時間を、自分を整える時間へ。そうした価値観に共感される方にとって、十三やのつげ櫛は、単なる道具を超えた存在となるはずです。静かで確かな選択肢として、今もなお選ばれ続けている理由が、そこにあるように思われます。
画像出典:十三や公式サイト


